秋風の便り (青春小説)

秋風の便り

10月。街は、少しずつ色を変える準備をしていた。茜色に染まる夕暮れは、いつもの風景に温かさを添え、キンモクセイの甘い香りは、秋の訪れを告げていた。

「ねえ、翔太、今日なんか寒くない？」

公園のベンチに座り、紅葉を眺めていた莉子は、隣に座る翔太にそう尋ねた。

「ああ、確かに。もう冬が近いんだな。」

翔太は、少し物憂げに空を見上げた。

莉子は、翔太の表情がいつもと違うことに気づいた。いつもの明るい笑顔がない。

「どうしたの？何かあった？」

「いや、別に。ただ、最近ちょっと金欠なんだ。」

翔太は、そう言って苦笑した。

「えー、なんで？バイト増やしたんじゃないの？」

「うん、でも、最近物価が高いんだって。食費とか、まじでキツい。」

翔太は、ため息をついた。

莉子は、翔太の言葉を聞いて、自分の財布の中身を思い出した。

「私も、最近お洋服とか買えてない。欲しいものがあっても、値段見て諦めちゃう。」

「そうなんだ。みんなそうなんだな。」

翔太は、少し寂しそうな声で言った。

「でも、翔太、お金がないからって、いつも通りの笑顔をなくさないでよ。」

莉子は、翔太の肩に手を置いた。

「莉子、ありがとう。」

翔太は、莉子の言葉に少し元気を得たように、再び笑顔を見せた。

「秋は、やっぱり食欲の秋だよね。美味しいものたくさん食べたいなぁ。」

莉子は、そう言って、翔太にいたずらっぽく笑いかけた。

「そうだね。でも、お金がないから、節約して美味しいものを食べよう。」

翔太は、莉子にそう提案した。

「節約デート？いいね！」

莉子は、目を輝かせた。

二人は、夕暮れの公園を後にし、秋の夜空の下、節約デートへと繰り出した。

お金はなくても、大切な友達との時間は、何にも代えがたい。

二人の心は、秋の澄み切った空気のように、温かく満たされていた。