大風降臨、天下統一セール
「ついに来たか、この日が！」
商家の主人、張氏は、店の入り口に掲げられた赤地の布地に目を輝かせた。そこには、力強く書かれた文字が躍っていた。
「大風降臨、天下統一セール！」
この言葉は、まるで嵐が吹き荒れるような勢いで、街中に響き渡っていた。年に一度、帝国最大の商祭「大風祭」が開催されるのだ。
張氏は、この祭りを待ち焦がれていた。彼の店は、武具や防具を扱う「張家武具店」である。普段は、近隣の農民や旅人が、鍬や刀を買い求める程度で、賑わいとは程遠い。しかし、大風祭になれば、各地から武士や商人が集まり、店は活気に満ち溢れる。
「今年は、一体どんな品物が売れるだろう？」
張氏は、期待に胸を膨らませながら、店の奥へ進む。そこには、祭りに向けて準備された、様々な武器が整然と並んでいた。
「今年は、あの噂の『鉄血の鎧』も仕入れたのだ！」
張氏は、自慢の鎧を手に取り、その重厚感に酔いしれた。
「この鎧があれば、どんな猛者も寄せ付けないだろう！」
大風祭当日、張氏の店は、人で溢れかえっていた。武士たちは、新しい刀や鎧を求め、商人は、貴重な宝石や香辛料を買い求める。
「あの鎧、いくらで売っているんだ？」
「なんと、五両です！」
「五両！？」
武士たちは、その値段に驚きながらも、その美しさに魅了されていた。
「これは、大風祭でしか手に入らない逸品だ！」
商人も、様々な品物を求めて、店から店へと駆け巡っていた。
「この香辛料、どこで手に入れたんだ？」
「それは、秘境の地で手に入れた、幻の香辛料だ！」
「幻の香辛料！？」
商人は、その言葉を聞いて、目を輝かせた。
「これは、大儲け間違いなしだ！」
大風祭は、まさに、天下統一セールだった。あらゆるものが売られ、あらゆるものが買われた。張氏の店も、例年になく賑わい、張氏は、満面の笑みを浮かべていた。
「今年の祭りは、大当たりだ！」
張氏は、心からそう思った。しかし、彼の喜びも束の間、店の入り口に、一人の男が立っていた。
「張氏、貴店の『鉄血の鎧』、譲ってくれ！」
男は、威圧感のある声で、そう言った。その男は、帝国最強の武将、趙将軍だった。
「趙将軍！？」
張氏は、言葉を失った。
「趙将軍、これは、私の店の・・・」
「私は、この鎧を手に入れるまで、ここから動かないぞ！」
趙将軍は、鋭い眼光で、張氏を見据えた。
「これは、一体・・・」
張氏は、言葉を飲み込んだ。
「趙将軍、どうにかして、この鎧を・・・」
張氏は、苦し紛れにそう言うと、趙将軍に深々と頭を下げた。
「ふふ、面白いな。では、お前が、この鎧の価値に見合うものを出せれば、譲ってやろう。」
趙将軍は、不敵な笑みを浮かべて、そう言った。
「価値に見合うものを・・・？」
張氏は、言葉を失った。
「一体、何を差し出せば・・・」
張氏は、頭を抱えた。
「さあ、どうするんだ？」
趙将軍は、静かに張氏を見つめていた。
張氏は、決死の覚悟で、店から、最も価値のあるものを持ち出した。それは、彼の祖父から代々受け継がれてきた、伝説の刀だった。
「これは、私の家宝である『龍牙』です。この刀を、趙将軍に差し上げます！」
張氏は、刀を趙将軍に差し出した。
「龍牙・・・？」
趙将軍は、刀を手に取り、その輝きに目を奪われた。
「これは・・・」
趙将軍は、刀の価値を察し、言葉を失った。
「この刀は、趙将軍にふさわしいでしょう。どうか、この刀を受け取ってください。」
張氏は、必死にそう訴えた。
「ふむ・・・。」
趙将軍は、刀をゆっくりと鞘に収め、張氏を見た。
「お前は、なかなかやるな。」
趙将軍は、そう言うと、張氏に深々と頭を下げた。
「私は、この刀を受け取ろう。」
趙将軍は、そう言うと、張氏の店から去っていった。
張氏は、安堵のため息をついた。彼は、大切な家宝を失ったものの、命だけは助かった。
「しかし、あの男は、一体何者だったのか？」
張氏は、趙将軍の影を思いながら、そう思った。
「大風祭は、終わった。」
張氏は、静かにそう呟いた。
「しかし、この世の戦いは、これから始まるのだ。」
張氏は、そう確信しながら、店の片付けを始めた。
大風祭は終わった。しかし、人々の心の戦いは、まだ始まったばかりだった。
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- 小説のジャンル: 歴史小説