歪んだ鏡

「もうダメだ、ネタが枯渇したんだ」

電話越しに聞こえるのは、かつての友人の、やつれた声だった。

「…どうしたんだ?」

「漫画のアイデアが浮かばないんだ。もう何週間も、何も描けていない。このままじゃ、俺は…」

彼は、かつて「恐怖漫画の巨匠」と呼ばれた男だった。

「大丈夫だ、落ち着け」

私は、友人を落ち着かせようと、言葉を選んで言った。

「でも、もう何も思いつかないんだ。頭の中は真っ白で…」

「焦るな。少し休んで、気分転換でもしてみたらどうだ?」

「気分転換?…何をすればいいんだ?」

「…そうだ、昔のように、一緒にあの場所にでも行ってみようか?」

彼は、しばらく沈黙していた。

「…あの場所?」

「ああ、あの、歪んだ鏡がある場所だ」

かつて、私たちは、その場所で多くの時間を過ごした。子供心に、歪んだ鏡に映る自分の姿に、恐怖と好奇心を抱いていた。

「…わかった。明日、行こう」

彼の声は、わずかに明るくなったように聞こえた。

翌日、私たちは、あの場所を訪れた。

そこは、かつて賑わっていた遊園地の跡地だった。さびれた鉄骨が、朽ち果てた遊具と共に、静かに空を見上げていた。

「…変わってしまったな」

友人は、ため息をつきながら言った。

「あの時と同じように、あの鏡を探そう」

私は、そう言って、草むらの中を歩き始めた。

しばらく歩くと、朽ち果てた小屋の奥に、歪んだ鏡を見つけた。

「…あった」

友人は、鏡の前で立ち止まり、自分の姿を見つめていた。

「…昔は、怖かったな」

彼は、呟くように言った。

「鏡に映る自分の姿が、まるで別の生き物のようだった」

「…そうだな」

私は、彼の言葉に同意しながら、鏡に映る自分の姿を見た。

しかし、そこに映っていたのは、私の姿ではなかった。

鏡に映っていたのは、奇妙な、歪んだ顔をした男だった。

「…これは…」

友人の顔が、青ざめていた。

「…なんで?」

彼は、震える声で言った。

「…どうして、俺の姿じゃないんだ?」

鏡に映る男は、ゆっくりと、私たちの方を向き始めた。

「…なぜ、お前たちは、ここにいるんだ?」

男の口から、不気味な声が漏れた。

「…お前は…誰だ?」

友人は、恐怖に震えていた。

「…俺は、お前たちの恐怖だ」

男は、そう言い残すと、ゆっくりと、鏡の中に消えていった。

私たちは、その場に呆然と立ち尽くしていた。

「…あの男は…一体?」

友人の顔は、真っ白だった。

「…わからない」

私は、何も答えられなかった。

私たちは、その場を立ち去り、再び電話で話す約束をした。

「…あの鏡は、何かを映し出していたんだ」

彼は、そう呟いた。

「…何かを…」

私は、友人の言葉に、背筋がゾッとした。

「…俺たちは、一体、何を目撃したんだ?」

電話越しに、友人の声が、小さく震えていた。

「…それは、お前だけが知っていることだ」

私は、そう告げると、電話を切った。

夜空には、満月が輝いていた。

しかし、私の心は、不安でいっぱいだった。

なぜなら、あの鏡に映っていたのは、ただの歪んだ姿ではなかった。

それは、私たち自身の、最も深い恐怖を映し出していたのだ。

そして、それは、まだ終わっていない。

A distorted mirror reflects a warped image, presenting a twisted and fragmented view of reality.

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    • News検索単語: 影
    • 小説のジャンル: ミステリー小説