蒼空の悪夢 (ミステリー小説)

蒼空の悪夢

「あの、すみません。窓側、少しだけ開けてもらえますか？」

機内アナウンスが静かに響く中、隣席の女性から優しい声が聞こえた。僕は、隣に座る彼女の美しさに言葉を失っていた。完璧な容姿に、どこか哀愁漂う雰囲気。まさに、僕が憧れるタイプの女性だった。

「あ、はい、もちろんです。」

僕は慌てて窓のブラインドを少しだけ開けた。彼女は満足そうに微笑み、窓の外を眺める。

「素敵ですね。この景色。」

「はい、本当に。」

僕は、彼女に話しかけるチャンスだとばかりに、緊張しながらも会話に花を咲かせようとした。しかし、彼女はどこか遠い場所を見つめており、僕の言葉に反応するのは薄っぺらい返事だけだった。

「あの…、もしよければ、お名前を教えていただけますか？」

「…リリーです。」

彼女の短い返事に、僕は少し落胆した。それでも、諦めずに話題を探そうと、旅行の目的や仕事について質問してみた。しかし、彼女の返事はいつも短く、興味なさげだった。

「…私は、この飛行機に乗るまでは、ここに来るつもりはありませんでした。」

突然のリリーの言葉に、僕は首を傾げた。

「え、どういう意味ですか？」

「…何もありません。気にすることはありません。」

彼女は再び窓の外を眺める。彼女の表情は、先ほどまでとは明らかに違っていた。何かを隠しているような、不穏な雰囲気が漂っていた。

「リリーさん、何か困っていることがあるんですか？」

「…あなたは、私を良く知らないでしょう？」

彼女は、鋭い視線で僕を見つめる。その視線に、僕は背筋がゾッとした。

「…ええ、そうですけど。」

「…あなたは、私を助けてくれる？」

彼女の言葉は、まるで呪文のように、僕の心を支配していく。

「…もちろんです。何かあれば、力になります。」

「…あなたは、私を信じる？」

「…はい、信じます。」

リリーは、ゆっくりと微笑んだ。その微笑みは、まるで悪魔のささやきのように、僕の心を蝕んでいく。

「…あなたは、私を助けてくれるでしょう？」

それから、彼女は自分の過去について語り始めた。それは、想像を絶するような、恐ろしい物語だった。彼女は、自分の身に起きた事件から逃れるために、この飛行機に乗ったのだという。そして、彼女は、僕に助けを求めていた。

「…あなたは、私を守ってくれるでしょう？」

彼女の言葉に、僕は自分の身を危険にさらす覚悟を決めた。

「…はい、絶対に。」

僕は、リリーを守ることを誓った。しかし、その瞬間から、僕の人生は悪夢へと変わっていく。

リリーは、実は逃亡中の殺人犯だったのだ。彼女は、飛行機内で、新たな犠牲者を狙っていた。そして、僕は、彼女の次の標的になってしまったのだ。

機体は、目的地へと向かう。しかし、僕を待ち受けているのは、残酷な運命だった。

【続く】