飛鳥の密室：五重塔の謎 (推理小説)

飛鳥の密室：五重塔の謎

聖徳太子こと厩戸皇子は、斑鳩の里で頭を悩ませていた。法隆寺五重塔の建立は順調に進んでいたが、不可解な事件が起こっていたのだ。

ある朝、棟梁のイシカワが塔内部で死体となって発見された。死因は後頭部への殴打。凶器は見つからず、密室状態だった。

「まるで……空から舞い降りたかのようだ」

現場を検分した蘇我馬子は呟いた。五重塔はまだ完成しておらず、最上階までは梯子で登る必要があった。しかし、梯子は引き上げられており、外部からの侵入は不可能。内部にも争った形跡はなかった。

太子は、物部守屋と共に捜査を開始する。関係者への聞き込みから、イシカワは新しい建築技術の導入に反対する一部の職人たちと対立していたことが判明する。

そんな中、太子は夢を見る。夢の中で、光り輝く球体が現れ、一枚のカードを見せられる。そこには、完成した五重塔の風景が描かれていた。そして、奇妙な声で語りかけられた。

「この塔…驚くべき技術…まるで重力を…操っているかのような…」

目を覚ました太子は、夢で見たカードのことを思い出す。まるで未来の技術を垣間見たかのようだった。そして、ある仮説を立てる。

「…もし、犯人が未来の技術、いや、異世界の技術を使っていたとしたら？」

太子は、馬子に夢の内容を告げ、五重塔の構造を再調査するよう指示する。馬子は半信半疑ながらも、太子の指示に従い、塔の隅々まで調べ上げた。

すると、五重塔の心柱に、奇妙な痕跡を発見する。それは、まるで何かが高速で通過したかのような焦げ跡だった。そして、その痕跡は、イシカワが発見された場所の真上に繋がっていた。

太子は確信した。犯人は、夢で見た「空から舞い降りた」存在、つまり、未来、もしくは異世界から来た何者かであり、高度な技術を使って塔内部に侵入し、イシカワを殺害したのだと。

しかし、その存在を捕まえる術はない。太子は苦悩するが、ふと、夢で見たカードを思い出す。

「もし、犯人が未来の技術を使えるなら…私も未来の知識を使えばいい」

太子は、カードに描かれた五重塔の構造を詳細に分析し、ある事実に気づく。塔の中心部には、わずかながら空間の歪みが存在していた。そして、その歪みは、ある特定の時間帯に最大になることが計算で判明した。

太子は、歪みが最大になる時間帯に、五重塔の中心部に集まるよう指示を出す。そして、時刻が来た瞬間、心柱の焦げ跡から、淡い光が漏れ出した。

光の中から、人影が現れる。それは、未来の技術者、いや、異星人の姿だった。異星人は、驚愕の表情で太子を見つめる。

「…なぜ…貴様は…我々の技術を…」

太子は静かに答えた。

「未来の技術は、未来の平和のために使うべきだ。殺人のために使ってはならない」

異星人は観念したように肩を落とし、太子たちに身柄を拘束された。

事件は解決した。しかし、太子は、異星人の存在、そして未来の技術の脅威を心に深く刻み込んだ。飛鳥の空にそびえ立つ五重塔は、未来への希望と同時に、未知の脅威への警鐘を鳴らしていた。