富山の密室：疾風のカートレース (推理小説)

富山の密室：疾風のカートレース

富山の中世風の村、隠里。鍛冶屋の息子、トヤマはグランツーリスモさながらの馬車レース「疾風祭」に夢中だった。自作のカートで野山を駆け巡り、来る祭りの優勝を夢見ていた。今年は特に賞金が高額で、貧しい家族の生活を変える絶好の機会だった。

祭りの当日。広場は熱気に包まれていた。有力候補は、村長の息子カゲミツ。最新鋭のカートと豊富な資金で他を圧倒する存在だ。トヤマは旧式のカートで挑むも、予選を難なく突破。家族の応援が彼の背中を押す。

決勝レースは波乱の幕開けとなった。スタート直後、カゲミツのカートが爆発炎上。カゲミツは奇跡的に軽傷で済んだが、レースは中断。騒然とする会場。これは事故か、それとも……。

隠里の駐在、ベテラン刑事のタケダは鋭い眼光で現場を検証する。爆発の原因はカートの燃料タンクへの細工。これは殺人未遂事件だ。容疑者はレースの参加者全員。タケダは一人ずつ事情聴取を始める。

トヤマはカゲミツとの確執を問いただされる。カゲミツはトヤマの才能に嫉妬し、度々嫌がらせをしていたのだ。しかし、トヤマは「レースで勝つことが一番の復讐だ」と犯行を否定。

他の参加者もそれぞれアリバイを主張。有力な手がかりは見つからない。タケダは頭を抱える。密室のようなレース場、限られた容疑者。真犯人は一体誰なのか？

その時、トヤマは閃いた。決勝レース直前、カゲミツのカートの周りをうろついていた男を思い出した。男は村の外れに住む、元カート職人のゲンゾウだった。ゲンゾウはカゲミツにカートの改造を依頼されていたが、金銭トラブルで断られていたという。

タケダはゲンゾウの自宅へ急行。そこで発見したのは、燃料タンクに細工をするための工具と、カゲミツに送った脅迫状だった。ゲンゾウは犯行を自供。動機は金銭トラブルと、カゲミツへの復讐だった。

事件は解決し、レースは再開された。トヤマはカゲミツの無念を背負い、全力でカートを走らせる。最終ラップ、激しいデッドヒートの末、トヤマは見事優勝。歓声に包まれる中、トヤマは天を仰いだ。

しかし、事件は本当に解決したのだろうか？タケダは一つの疑問を抱えていた。ゲンゾウの供述には不自然な点があった。本当にゲンゾウだけが犯人なのか？それとも、他に黒幕がいるのか？タケダの捜査は、まだ終わっていなかった。そして、トヤマの周りには、まだ見えない影が潜んでいた……。