天津の光と、異星の訪れ

第1章異光

江戸時代、慶長12年（1607年）の秋。天津の町は、秋の風が心地よく吹き抜ける晴れた日だった。賑やかな市場の音、子供たちの歓声、そして職人たちの槌の音。いつものように、活気に満ち溢れていた。

しかし、その平和な空気に、異変が訪れた。

空高く、幾筋もの、まるで金色に染まった稲妻のような光が、瞬く間に駆け抜けた。その異様な光は、周囲の人々を驚愕の渦に巻き込んだ。

「何じゃ、あれは…！」

「空が燃えているのか？」

恐る恐る空を見上げ、驚きを隠せない声が町中に響き渡った。やがて、その光は、古都天津の北西に位置する、代々続く豪商・松下家の屋敷の屋根に降り注いだ。

光が消えた後、屋敷から、煙のように白い靄が立ち上ってきた。その中から、幾何学的な、何とも不思議な形をした物体が出現した。

それは、地球上には存在しない、異質な生命体だった。

物体は、ゆっくりと、地に降り立った。その形は、まるで、幾何学模様を組み合わせた、巨大な貝殻のような姿だった。そして、その中から、ひとつの頭部が姿を現した。

その頭部は、奇妙な光を放ちながら、ゆっくりと動き、人間とは異なる、美しい、幾何学的な眼を、人々に向けて開いた。

そして、驚くべきことに、そのエイリアンは、人間の言葉を理解していた。

「吾輩は、星間巡航者、シリウスより来た。平和を望む。地球との衝突は避ける。然れども、我々は、此処の習俗を理解する必要がある」

エイリアンは、流暢な日本語で語り出した。その言葉は、まるで、古都の町に響く、神々の言葉のように思えた。

しかし、その言葉は、人々の心を、恐怖と不安で満たした。未知の存在。異質な文明。その存在は、人々にとって、衝撃的で、理解できないものだった。

武士たちは、困惑した。

この未曾有の事態に、幕府は、どう対応すべきなのか。

戦国時代の混乱を経験した老練な武士たちも、これほどまでに、途方に暮れることなどなかった。

軍需物資や外交関係、様々な情報網に動揺が走り、天津の町は、騒然とした渦に巻き込まれていった。

松下家は、この異星人の対応に、苦慮していた。

一時は、武装した武士たちが、その異星人の住処を包囲しようとしたが、エイリアンは、威嚇的な行動は一切取らず、ひたすら平和を訴えていた。

その様子は、人々に、次第に不安を、より一層強めた。

エイリアンの目的は、一体何なのか。

彼らは何を求めているのか。

彼らの存在は、この時代に、どのような影響を与えるのか。

運命の糸は、ゆっくりと、しかし確実に、紡がれつつあった…。

（続く…）