ケヤキ並木の獣
仙台、青葉山の麓。定禅寺通りのケヤキ並木は、昼間は市民の憩いの場として賑わいをみせるが、夜になると静寂に包まれ、どこか神秘的な雰囲気を漂わせる。その並木の中に、ひっそりと佇む一つの銅像があった。
この銅像については、詳しい記録が残されていない。いつ、誰が、何の目的で建てたのか、誰も知らない。ただ、古くからこの街に住む人々の間では、「夜になると獣の咆哮が聞こえる」という奇妙な噂が囁かれていた。
物語は、フリーライターの相沢透が、この都市伝説に興味を持ったことから始まる。彼は、スランプに陥り、何か刺激的な題材を求めていた。定禅寺通りのケヤキ並木、謎の銅像、そして獣の咆哮。これらは、彼にとってまさに願ってもないテーマだった。
相沢は、夜な夜な並木道を歩き、銅像を観察し始めた。そして、ある霧深い夜、彼はついに“それ”を目撃する。微かに揺らめく街灯の光の下、銅像の硬質な唇が確かに動き、獣の咆哮にも似た、野太い叫び声を上げたのだ。
恐怖に慄きながらも、相沢は確信した。この銅像には、何か秘密が隠されている。彼は調査を進めるうちに、街の歴史を紐解く必要性に気づく。仙台空襲、戦後の復興、そして都市開発。銅像の建立時期と、これらの出来事との間に、何らかの関連性があるのではないかと考えたのだ。
相沢は、図書館に通い詰め、古文書や地元の新聞記事を読み漁る。並行して、街の古老たちに話を聞き込み、少しずつ謎を解き明かしていく。やがて、彼は驚くべき事実を知る。銅像は、かつてこの地で猛威を振るった巨大な熊を模したものだったのだ。そして、その熊は、都市開発によって失われた自然への怨念を込めて、銅像に魂を宿したという言い伝えがあった。
さらに調査を進めるうちに、相沢は銅像の台座に刻まれた奇妙な記号を発見する。それは、古代の呪術的なシンボルであり、獣の魂を操る力を持つとされていた。そして、その記号を解読した相沢は、戦後、この地で闇の儀式が行われていたことを知る。
儀式を行ったのは、都市開発を推進した権力者たちだった。彼らは、熊の怨念を利用して、街の繁栄を願ったのだ。しかし、その儀式は失敗に終わり、熊の魂は制御不能となり、銅像に封じ込められたのだった。
相沢は、銅像の秘密を暴き、記事にしようと決意する。しかし、彼を待ち受けていたのは、想像を絶する恐怖だった。銅像に封じられた獣の魂は、再び覚醒し、街に牙を剥き始めたのだ。
ケヤキ並木の獣は、単なる都市伝説ではなかった。それは、人間の欲望と自然の怒りが織りなす、恐るべき真実だった。相沢は、この真実を世に伝えることができるのか。そして、暴走する獣の魂を止めることができるのか。彼の運命は、深い霧に包まれた定禅寺通りの闇の中へと消えていく。
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- 小説のジャンル: ミステリー小説
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