砂塵の叙事詩：アレッポの商人、復讐の刃を握る

西暦2247年。アリゾナの荒野は、かつての砂漠とは異なっていた。赤茶けた地表には、風化した鉄骨の残骸が点在し、異星植物が不気味な蛍光を放つ。夕焼けは、人工衛星の残骸が作り出す不自然な光に染まり、鮮やかな赤紫に燃え上がっていた。

この荒涼とした大地を駆けるのは、拳銃ではなく、先端が鋭く光るサイバー手裏剣を携えた男、カリームだった。彼の黒い服は、砂塵にまみれ、かつての華やかなアレッポの商人の装いは影も形もない。影は、砂漠の薄い空気の中で不自然に伸び、まるで古代の忍者のようだった。

しかし、カリームは忍者ではない。かつてはアレッポの市場で香辛料を売っていた、温厚な商人だった。彼の故郷は、今は廃墟と化した、惑星アレッポの衛星都市の一つだった。その都市を破壊した張本人、悪名高きガンマン、“デス・イーグル"ことジェイコブ・リードの隠れ家を目指していた。

リードは、高度なサイバネティック技術を駆使した無法者。惑星連邦の追跡を逃れ、この荒廃したアリゾナに潜伏していた。彼が開発した新型のバイオ兵器は、惑星アレッポの生態系を破壊し、カリームの家族と故郷を奪ったのだった。

カリームのサイバー手裏剣は、高度なエネルギーブレードを内蔵し、その刃は、地球の重力下では想像を絶する切れ味を持つ。それは、彼の復讐の象徴であり、アレッポの市場で売っていたスパイスとは全く異なる、死の香りを漂わせていた。

彼は、砂塵の中を疾走するホバーバイクの追跡をかわしながら、リードの隠れ家へと近づいていった。隠れ家は、かつての軍事基地の残骸を利用した、要塞のような構造だった。周囲には、リードの私兵と思しきサイボーグ兵たちが警戒にあたっていた。

カリームは、砂塵をまとい、影のように敵の間をすり抜けていった。彼の動きは、アレッポの狭い路地で培われた、敏捷さと機転の賜物だった。サイバー手裏剣は、敵のサイバネティック装甲を容易く貫き、静寂の中で、僅かな金属音が響くのみだった。

しかし、リードは容易には倒れない敵だった。彼は、強化された肉体と、高度な兵器を駆使し、カリームを追い詰めていった。二人は、廃墟となった基地の中で、壮絶な死闘を繰り広げた。

最終決戦は、基地の中枢部、リードがバイオ兵器を開発していた研究室で行われた。カリームは、リードのサイボーグ兵の残骸と、破壊された実験装置に囲まれながら、最後のサイバー手裏剣を放った。

その刃は、リードの胸を貫き、彼の狂気に満ちた目が、徐々に光を失っていくのが見えた。砂塵が舞い上がり、夕焼けが、血のように赤く染まった。

カリームは、復讐を遂げた。だが、彼の心には、故郷を失った悲しみと、二度と戻ることのない平和な日々への想いが、深く刻まれていた。アレッポの商人は、砂塵の叙事詩を終え、一人、荒野に消えていった。彼の影は、長く、そして静かに伸びていた。

砂塵の叙事詩：アレッポの商人、復讐の刃を握る#