ベレンの夜、後悔と決意のペン (青春小説)

ベレンの夜、後悔と決意のペン

ベレンの夜は、蒸し暑かった。肌にまとわりつくような熱気は、僕の心の中の焦燥感をさらに煽るようだった。ワールドラリー選手権、ポルトガル・ラリー。憧れのコ・ドライバー、リーナとの初参戦は、最悪の形で幕を閉じた。

夜空には星が瞬いていたけれど、僕の目にはただ、消え入りそうな光にしか見えなかった。チームテントの隅、借り物の椅子に座り、僕は震える手でペンを握りしめた。

今日の出来事を思い出すたび、後悔の念が波のように押し寄せる。高速コーナーへの進入。リーナのコールは完璧だった。「ブラインド、ロング、フラット、フル！」。でも、僕は欲を出してしまった。コンマ一秒でも速く、限界を超えてやろうと。

結果は、ガードレールへの激突。マシンは無残な姿を晒し、僕らの夢も、希望も、木っ端微塵に砕け散った。リーナは幸いにも無傷だったけれど、彼女の顔から笑顔が消え、代わりに浮かんだ失望の色は、僕の心を深く抉った。

リーナとの出会いは、高校のラリー部だった。彼女の冷静な判断力と、正確なコールは、いつも僕を正しい道へと導いてくれた。生意気で無鉄砲な僕を、リーナはいつも優しく、そして厳しく支えてくれた。いつしか、彼女は僕にとって、かけがえのない存在になっていた。

プロのラリードライバーになる。それが、僕の、そしてリーナの夢だった。その夢を叶えるために、僕らは幾多の困難を乗り越えてきた。アルバイトに明け暮れ、古い中古車を整備し、限られた資金でラリーに参戦した。泥まみれになりながら、それでも僕らは笑っていた。なぜなら、僕らには夢があったから。

今回のポルトガル・ラリーは、その夢を掴むための大きなチャンスだった。実績のあるチームからの誘い。スポンサーの獲得。全てが順調に進んでいるように思えた。だからこそ、僕は焦ってしまったのかもしれない。結果を出さなければ、というプレッシャーに押し潰されそうになっていた。

僕はペンを走らせた。チームへの、そしてリーナへの謝罪の言葉を綴った。

「今日の事故は、全て僕の責任です。無謀な運転をしてしまい、マシンを、そして皆さんの信頼を裏切ってしまいました。本当に申し訳ありませんでした。特に、リーナには、深くお詫び申し上げます。君の正確なコールを無視して、自分の判断を優先してしまった。本当に、ごめん。」

ペンを持つ手が震える。涙が滲んで、文字が歪んで見える。

「今回の失敗を、決して無駄にはしません。この悔しさをバネに、僕は必ず強くなります。もう一度、チャンスをください。もう一度、リーナと一緒に、ラリーに挑戦させてください。今度は、必ず、チームの期待に応えます。そして、リーナを、笑顔にします。」

手紙を書き終えた時、夜は更け、空にはオリオン座が輝いていた。僕は深呼吸をした。後悔の念はまだ消えないけれど、心の中に、新しい光が灯ったような気がした。

明日、僕はチームに、そしてリーナに、直接謝罪する。そして、もう一度、夢を追いかけるためのスタートラインに立つ。

ベレンの夜。それは、僕にとって、後悔と決意の夜だった。リーナとの絆を信じて、僕はもう一度、アクセルを踏み込む。青春は、まだ終わらない。