弥生土偶とエカテペックの呪い
第一章：拡散する笑いと悪夢の始まり
深夜2時。ジャーナリストの佐竹は、疲れ切った体を引きずりながら、SNSのタイムラインを漫然とスクロールしていた。目に入ったのは、古びた弥生土偶の画像。タイトルは「エカテペックのおばちゃんの呪い付き！拡散注意！」。
正直、鼻で笑った。最近流行りのミームの一種だろう。画像には、土偶の不気味な造形に、メキシコのエカテペックという都市名が唐突に結びつけられていた。コメント欄は「草」「マジで呪われそうｗ」といった軽いノリの書き込みで溢れている。
佐竹も特に気に留めず、画像を閉じた。しかし、その夜、彼は奇妙な夢を見た。夢の中で、土偶が暗闇の中で薄緑色に光り、低く唸るような声で、お経のような、しかし全く理解できない言葉を呟いていたのだ。
翌朝、佐竹は寝不足と奇妙な夢のせいで、頭痛に悩まされた。夢の内容は妙にリアルで、彼の心をざわつかせていた。
第二章：悪夢の連鎖とSNSの異変
その日から、佐竹の周囲で奇妙な出来事が起こり始めた。PCが頻繁にフリーズしたり、携帯の電波が異常に弱くなったり、挙げ句の果てには、彼の記事が掲載されるはずだったWebサイトが、原因不明のサーバーダウンに見舞われたのだ。
最初は偶然だと思っていた佐竹だが、連日のように続く不運に、さすがに嫌な予感を覚えた。そして、ある晩、SNSのDMに一通のメッセージが届いた。
「あなたも見たのね…あの土偶の画像を…」
送信者は匿名のアカウント。アイコンは真っ黒で、自己紹介文もない。佐竹は警戒しながらも、返信した。
「どういうことですか？あの土偶と何か関係があるんですか？」
すぐに返事が来た。
「あれは…本物よ。エカテペックの呪いが込められているの。あれを見た人は、不幸になる…」
佐竹はアカウントを調べようとしたが、すぐに削除されていた。しかし、その言葉は、彼の心を深く突き刺した。
佐竹は、ジャーナリストとしての勘を働かせ、土偶について調べ始めた。図書館で弥生時代の土偶に関する資料を読み漁り、インターネットでエカテペックに関する情報を検索した。
弥生時代の土偶は、豊穣祈願や死者の魂を鎮めるために作られたとされる。しかし、エカテペックとの関連を示すものは、何も見つからなかった。
焦燥感に駆られた佐竹は、思い切ってSNSの画像投稿者にコンタクトを取ることにした。何人かにメッセージを送ったが、ほとんどが返信がないか、「適当に拾った画像です」といったものだった。
しかし、その中で一人だけ、興味深い情報を教えてくれる者がいた。それは、美術史の研究をしている大学生だった。
「あの土偶、実はレプリカではなく、本物かもしれません。弥生時代後期の土偶で、東北地方で発掘されたもののようです。ただ、記録には残っていなくて、出所不明なんです。」
佐竹は、大学生から送られてきた土偶の写真と、SNSの画像を照らし合わせた。細部まで完全に一致する。大学生はさらに続けた。
「エカテペックとの関連は全く分かりませんが、もしかしたら、裏で何か秘密結社のようなものが関わっているのかも…」
佐竹は、大学生の情報をもとに、東北地方の博物館や遺跡を訪ね歩いた。しかし、土偶に関する手がかりは、なかなか見つからなかった。
そんな中、彼はある小さな村の古老から、奇妙な話を聞いた。
「昔々、村に奇妙な土偶が流れ着いたそうな。その土偶を祀ると、村には豊作が訪れたが、同時に、原因不明の病が流行り、多くの人が死んだそうな。村人は、土偶を川に流し、二度と触れなかったそうな…」
佐竹は、古老の話と、エカテペックの呪いの噂を結びつけた。もしかしたら、あの土偶は、単なるオブジェクトではなく、人々の負の感情や怨念が込められた、呪いの媒体なのではないか？
佐竹は、最後の望みを託し、あの土偶の画像を最初に拡散した人物を探し出した。それは、都内のIT企業に勤める、冴えないシステムエンジニアだった。
「あの画像ですか？適当に拾っただけですよ。エカテペックのおばちゃんの呪いなんて、ただのネタですって。」
しかし、佐竹は彼の目をじっと見つめた。彼の目は、明らかに何かを隠している。
「本当ですか？何か知っているはずだ。」
システムエンジニアは、しばらく黙っていたが、ついに口を開いた。
「実は…あの画像は、あるサイトで見つけたんです。ダークウェブの…。」
彼は、ダークウェブで見つけた、ある秘密結社のサイトを教えた。そのサイトには、呪いの儀式や、呪いのアイテムが取引されていた。そして、あの土偶は、「エカテペックの呪い」を強化するための媒体として、高額で取引されていたのだ。
佐竹は、秘密結社のサイトにアクセスし、彼らの正体を暴こうとした。しかし、高度なセキュリティに阻まれ、なかなか核心に迫ることができない。
その時、佐竹のPCが突然シャットダウンした。暗闇の中で、再びあの土偶が薄緑色に光り、お経のような言葉を呟き始めたのだ。
佐竹は、恐怖に震えながらも、冷静さを保とうとした。彼は、あの土偶の画像を削除し、PCの電源を落とした。そして、秘密結社のサイトで見た呪いの儀式を思い出し、それを逆手に取って、彼らの呪いを打ち破ろうとしたのだ。
彼は、自宅にあった塩や米、酒などを使い、即席の儀式を行った。そして、心の中で、強く念じた。
「私は、この呪いに屈しない。私は、真実を暴くジャーナリストだ。お前たちの悪事を、必ず明らかにする！」
その時、部屋の電気が激しく明滅し、突風が吹き荒れた。しかし、佐竹は怯むことなく、儀式を続けた。そして、ついに、あの土偶の光が消え、お経のような言葉も聞こえなくなった。
翌日、佐竹は秘密結社のサイトにアクセスし、彼らのサーバーに侵入することに成功した。そして、彼らの情報をすべて警察に提供した。
数日後、秘密結社のメンバーは、逮捕された。彼らは、呪いの儀式を利用して、人々を操り、金儲けをしていたのだ。
事件は解決し、佐竹の周囲から奇妙な出来事もなくなった。彼は、あの土偶の画像も完全に消去し、エカテペックの呪いの悪夢から解放された。
しかし、佐竹は、この事件を通して、インターネットの闇と、人々の心の弱さを痛感した。そして、ジャーナリストとして、真実を追求し、悪と戦うことを、改めて心に誓ったのだった。
終
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- 小説のジャンル: 推理小説
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