トビリシ、あの夏の背中 (青春小説)

トビリシ、あの夏の背中

プロローグ

トビリシ、ジョージアの古都。石畳の道、色とりどりのバルコニー、そして夕暮れに染まるメテヒ教会のシルエット。あの夏、僕はここで、まるで映画のワンシーンのように、運命的な出会いを果たした。ビージーズの音楽が、街角に響き渡る中、彼女は現れた。まるで夢の中にいるような、あの瞬間を僕は決して忘れないだろう。

第一章：太陽のメロディ

夏休みを利用して、僕はジョージアに一人旅に来ていた。目的は、古き良きヨーロッパの雰囲気を味わうこと。そして、自分の殻を破ること。バックパックを背負い、トビリシの街を彷徨っていた僕は、ある日、偶然小さな広場にたどり着いた。そこで、その光景を目にしたのだ。

広場の真ん中では、どこからともなく流れてきたビージーズの「背中に乗るな」に合わせて、数人の若者たちが踊っていた。陽気な音楽、弾ける笑顔、そして自由な空気。その中心にいたのが、彼女だった。

彼女の名前は、ニノ。漆黒の髪を風になびかせ、鮮やかな赤のドレスを着ていた。彼女は、まるで踊るために生まれてきたような、そんな存在だった。ビージーズの歌に合わせて、ステップを踏む彼女の姿は、まるで映画のヒロインのようだった。

僕は、その光景にすっかり見入ってしまった。普段は人見知りで、引っ込み思案な僕だが、不思議と彼女に惹きつけられ、気づけば広場に足を踏み入れていた。

第二章：背中の温もり

勇気を振り絞って、僕はニノに話しかけた。「あの、踊りがすごく素敵ですね」

彼女は、驚いたように僕を見て、にっこりと笑った。「ありがとう。あなたも一緒に踊らない？」

その言葉に、僕は心臓が大きく跳ねた。まさか、自分が踊ることになるとは思ってもいなかった。それでも、僕はニノの誘いに乗り、ぎこちないながらも踊り始めた。

最初はぎこちなかった僕のステップも、ニノのリードと周りの仲間たちの笑顔に助けられ、徐々にスムーズになっていった。音楽に合わせて体を動かすうちに、日頃の悩みや不安が吹き飛んでいくような気がした。

ダンスが終わった後、僕たちは広場のベンチに座り、お互いのことを話し始めた。ニノは、トビリシで生まれ育ち、画家を目指しているという。彼女の言葉は、まるで絵画のように鮮やかで、僕の心に響いた。

それからというもの、僕たちは毎日のように会うようになった。ニノは、僕にトビリシの街を案内し、美味しいジョージア料理を教えてくれた。彼女は、僕の知らない世界を教えてくれ、僕の心を解き放ってくれた。

第三章：忘れられない夏

夏のトビリシは、情熱的だった。太陽は容赦なく照りつけ、人々は陽気に街を歩き回る。そんな中で、僕とニノの関係は、日に日に深まっていった。

僕たちは、メテヒ教会の丘で夕日を眺め、旧市街のカフェで時間を潰し、ビージーズの音楽に合わせて踊った。ニノは、僕に絵の描き方を教えてくれ、僕は彼女に日本の文化を教えた。

彼女は、僕の背中に寄り添い、温もりをくれた。まるで「背中に乗るな」というビージーズの歌のように、彼女は僕に、自分の力で歩むことの大切さを教えてくれた。

しかし、夏の終わりは、近づいていた。

第四章：旅立ちの歌

夏休みが終わり、僕は日本に帰国する日が来た。空港に向かう道中、僕はニノに「さよなら」を告げた。

「また、会えるよね？」僕は、精一杯の勇気を出して言った。

ニノは、少し寂しそうな表情で、僕の目を見つめた。「もちろん。必ず。」

別れの瞬間、僕はニノの頬にそっとキスをした。それは、僕にとって初めてのキスだった。

飛行機が離陸する瞬間、僕は窓からトビリシの街を眺めた。あの夏の思い出が、走馬灯のように蘇る。ビージーズの音楽、ニノの笑顔、そして、あの温もり。

僕は、心の中で誓った。必ず、またトビリシに戻ってくると。そして、彼女に再会すると。

エピローグ

あれから数年が経った。僕は、ニノとの出会いをきっかけに、自分の夢を見つけ、前に進むことができた。今でも、時々、ビージーズの「背中に乗るな」を聴くと、あの夏のトビリシの街角で、踊り明かした日々を思い出す。

そして、いつか、僕は彼女の描いた絵を見に、あの夏の記憶が息づくトビリシへ、再び旅立つだろう。それは、僕にとって、大切な約束なのだから。

(終わり)