サポパン、植民地時代の夜。～ゾーグ様、TikTokでバズる！？～ (ライトノベル)

サポパン、植民地時代の夜。～ゾーグ様、TikTokでバズる！？～

カチャカチャ、カチャカチャ。

古ぼけたサポパン（東アフリカの島、ペンバ島の方言）の掘っ立て小屋の中で、奇妙な音が響いていた。その音の主は、ぬらりとした緑色の皮膚を持つ、異星人ゾーグだった。

「くそ…！また間違えた！地球人のダンスは複雑すぎる！」

ゾーグは、額の三つの目に汗を滲ませながら、スマホサイズの通信端末を睨みつけた。映し出されているのは、地球で大流行中のSNS、TikTokの画面。そこに表示されているのは、きゃぴきゃぴした女子高生たちが、キレッキレのダンスを踊る動画だった。

「この『オタ芸』…じゃなくて、『TikTokダンス』をマスターしなければ、地球侵略は成功しないんだ！」

ゾーグは、はるか遠いゾーグ星からやってきた侵略者。だが、彼の作戦は、武力による制圧ではなかった。ゾーグが目指すのは、地球人の心を掴み、内部から崩壊させるという、極めて巧妙…かどうかは怪しい作戦だった。

「まずは、地球人の間で最も影響力のあるインフルエンサーになる！そして、我がゾーグ星の文化を広め、洗脳する！フハハハハ！」

ゾーグは、そう高笑いしながら、再びダンス動画を再生した。背中には、サポパンの市場で手に入れたカラフルなキテンゲ（腰布）を無理やり巻いている。

「おい、ゾーグ！何をしているんだ？」

小屋の扉が開き、ひょろりとした体格の青年、ハサンが入ってきた。彼は、ゾーグがこの小屋を借りている、心優しい（というか、ちょっとお人好しな）青年だった。

「ハサンか。邪魔をするな！私は今、重要な任務を遂行しているんだ！」

ゾーグは、ハサンを鼻で笑いながら、ダンスの練習を再開した。ぎこちない動きで、腕を振り回し、腰をくねらせる。

「その…いつもすみません。家賃の支払いが遅れて…」

ハサンは、申し訳なさそうに頭を下げた。ゾーグは、ニヤリと笑った。

「気にするな。その代わり、お前に手伝ってもらいたいことがある」

「え…？何でしょうか？」

「このダンスを、私に教えてくれ！そして、私のTikTokアカウントを宣伝するんだ！」

ハサンは、目を丸くした。異星人が、TikTokでバズりたいだと！？

「ゾーグ様…もしかして、地球の文化に興味があるんですか？」

「勘違いするな！これは、あくまで侵略のための手段だ！…ただ、この『いいね』の数は、宗主国もびっくりするだろうな…」

ゾーグは、スマホの画面を見つめながら、呟いた。ハサンは、その言葉を聞いて、思わず苦笑した。

ハサンは、渋々ながらもゾーグのTikTok活動をサポートすることになった。彼は、ゾーグにダンスのコツを教え、動画の撮影を手伝った。ゾーグは、最初はぎこちなかったが、ハサンの指導のおかげで、徐々にダンスが上手くなっていった。

そして、ついにその時が来た。

ゾーグが投稿した、サポパンのキテンゲを着て踊るTikTokダンス動画が、爆発的にバズったのだ。

「おい、ハサン！見てみろ！フォロワーが100万人に到達したぞ！コメント欄もすごいことになっている！」

ゾーグは、興奮した声で叫んだ。コメント欄には、「何これ！？面白い！」「ゾーグ様、最高！」「宇宙人もTikTokする時代か」といったコメントが殺到していた。

「ゾーグ様…すごいですね。まるで、本物のインフルエンサーみたいです」

ハサンは、感心したように言った。ゾーグは、得意げに鼻を鳴らした。

「フフフ…これで、地球侵略も目前だ！まずは、ゾーグ星の伝統料理『ゲロゲロゼリー』を流行らせるぞ！」

しかし、ゾーグはまだ気づいていなかった。彼のTikTok活動は、地球侵略とは全く別の方向に進み始めていることを…。

果たして、ゾーグは地球侵略を成功させることができるのか？それとも、TikTokスターとして、地球人と仲良く暮らすことになるのか？

ゾーグの、そして地球の運命は、TikTokの「いいね」の数にかかっている！？

（続く…かも？）