夜明け前の築地市場近く、まだ冷たい空気が肌を刺す埠頭に、高校生の康介は一人立っていた。彼の右手には、長年連れ添ったエレキギター。夜空に残る星の光が、その漆黒のボディにわずかに反射している。

アンプの電源を入れ、ボリュームを最大まで上げる。ヘッドフォン越しに、心臓の鼓動のように重いノイズが響いた。そして、ピックが弦を弾く。

ジャキーン、という乾いた音が、静寂を切り裂いた。康介の指先が、堰き止められていた感情の奔流を解き放つかのように、ネックの上を舞い始める。情熱的で、しかしどこか胸を締め付けるようなソロが、埠頭の夜明け前の空気に響き渡った。

彼の瞳の奥には、あかりの面影が宿っていた。幼い頃、この場所で「いつか、二人で遠い海を見に行こう」と交わした、たわいない約束。あの日のあかりの笑顔が、ギターの旋律に乗って鮮明に蘇る。しかし、それはもう二度と取り戻せない過去の残像だ。彼女は遠い街へ引っ越してしまい、康介は結局、自分の本当の気持ちを伝えられなかった。

ギターの音色は、あかりへの募る愛と、あの時伝えられなかった言葉、そして二度と戻らない過去への切望を、魂の叫びとして轟かせた。遠くから聞こえ始める市場の喧騒すらもかき消すかのように、その音は力強く、そして切なく響く。まるで、幼い日に交わした約束の残響が、時を超えて彼の心臓を震わせているかのようだ。

指先が弦から離れると、深い沈黙が埠頭に戻ってきた。康介はギターを抱きしめる。夜明けの空が、少しずつその色を変え始めていた。彼の胸には、まだ熱い感情の残り火と、それでも前に進まなければならないという、かすかな決意が宿っていた。この音は、彼自身の、そして失われた青春への鎮魂歌だったのかもしれない。

A Dawn Requiem for Lost Youth

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    • 小説のジャンル: 青春小説
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