南大沢のアウトレットで衝動買いした電動自転車が、突如、リオの熱狂の裏で時空を超え爆走を開始した。多摩ニュータウンの自宅で、惰性で漕ぎ出したばかりの健太は、目の前が虹色の光に包まれ、風を切る音がジェットエンジンの轟音に変わった瞬間に、ただ呆然とするしかなかった。
「な、なんだこれ……!?」
次の瞬間、彼の視界に飛び込んできたのは、南大沢の閑静な住宅街ではなく、陽光まぶしい異国の風景だった。鮮やかな色彩の建物が立ち並び、人々は陽気に笑い、耳慣れない陽気な音楽がどこからともなく響いてくる。そして、何よりも目を引いたのは、行き交う自動車のデザインと人々の服装だ。明らかに、自分の知る現代とは異なる。
混乱する健太の耳に、通信機のようなノイズ交じりの声が届いた。「聞こえるか、健太君! 私はマツバラ! 君の電動自転車は、予測不能な時空転移装置と化してしまった! 今、君は1960年代のリオにいる!」
目の前に現れたのは、日焼けした肌に白衣をまとい、どこか奇抜なゴーグルをかけた男、謎の日系科学者マツバラだった。彼は健太の電動自転車に後付けされたらしい小型ディスプレイに映像として映し出されている。「この自転車は、君の無意識の欲求と、リオの熱狂するエネルギーがシンクロした結果、時間と空間の壁を突破してしまったんだ!」
「はぁ?!」健太は意味が分からなかったが、マツバラ博士は容赦なく続けた。「事態は一刻を争う。未来のカーニバルを消滅させようとする悪の組織『クロノス・シャドウ』が、この時代のリオに潜伏している。彼らは、後のカーニバルの礎となる『象徴的な文化遺産』を破壊しようとしているんだ!」
「カーニバルって……僕、平凡なサラリーマンなんですけど?」健太は自分が巻き込まれているスケールの大きさに眩暈がした。「なぜ僕が?」
「君の電動自転車は、時空を乱す特異点。悪の組織にとって邪魔な存在だ。そして、君がこの時代に現れたこと自体が、未来からのメッセージかもしれない。君こそが、まさかのヒーローなんだ!」
マツバラ博士の言葉に半信半疑のまま、健太はリオの街を電動自転車で走る。彼の愛車は、なぜかこの時代では最新鋭の未来的な乗り物に見えるらしく、人々の注目を集めた。博士の指示に従い、向かった先は、当時の音楽シーンを象徴する伝説のブラジル音楽フェス会場。まさに、ボサノヴァが世界を席巻しようとしていた熱気を帯びた場所だった。
フェス会場はすでに悪の組織の工作員によって混乱状態に陥っていた。彼らは音響システムを破壊し、出演者を妨害することで、歴史に残るはずだったパフォーマンスを消し去ろうとしていたのだ。健太は、ステージ裏で警備員と揉み合う黒服の男たちを目撃した。
「あれがクロノス・シャドウの連中だ!」マツバラ博士の声が耳元で響く。「奴らは音楽の魂を破壊しようとしている! 健太君、君の電動自転車の特殊機能を発動させるんだ!」
「特殊機能って、まさか……爆走するだけじゃ!?」
健太の電動自転車は、そのバッテリー残量と速度に応じて時空の歪みを発生させる特性を持っていた。それを応用することで、瞬時に短い距離をテレポートしたり、時間を遅く感じさせるほどの超加速が可能になるというのだ。
「行くぞ、健太! 地球と南大沢の運命が、君の肩にかかっている!」
健太は意を決した。平凡な日常から放り出された男が、まさか1960年代のリオで世界の命運をかけた戦いに挑むとは。彼はペダルを強く踏み込んだ。電動アシストが最大に働き、自転車は唸りを上げる。目の前のクロノス・シャドウの工作員に向かって、虹色の残像を残しながら突っ込んでいく。
「南大沢の魂、見せてやるぜ!」
健太は、伝説のブラジル音楽フェス会場を舞台に、未来のカーニバルを守るため、電動自転車を駆り、壮絶なチェイスとバトルを繰り広げた。時空を超えた爆走と、マツバラ博士の的確な指示、そして何よりも健太自身の「大切なものを守りたい」という衝動が、彼をまさかのヒーローへと変貌させていく。一見平凡な電動自転車が放つ未来の光は、熱狂のリオの夜空に、希望の弧を描いていた。

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- 小説のジャンル: SF小説
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